| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-510
現在の生態系において見られる生物の多様性は、少なくともその一因として生物同士の資源をめぐる競争によってつくられてきたと考えられている。しかし理論的には、要求ニッチがよく似た種が制限となる資源をめぐって競争するとき、通常、競争排除が起きて共存することは出来ないとされている。このような状況において競争種同士の共存が成立するためのメカニズムのひとつして、進化による利用資源のニッチ分化(形質置換)がある。
形質置換および資源利用をめぐる競争の研究では、重複する資源の獲得量をめぐって競争することが仮定されている。また、種内での個体の餌獲得をめぐる理論である最適採餌理論においても、捕食者の個体は時間当たりのエネルギー獲得効率を最大化するような、餌の選択や採餌行動が進化すると予測されてきた。
しかし、実際の生物を制約するのが常にエネルギーだけであるとは限らない。近年発展してきた生態化学量論にもとづいて、生物の相互作用に関して、エネルギー(炭素)だけでなく栄養素として代表的な窒素やリンなどの複数の元素が生物の成長を同時に制約するような証拠が多数の研究によって示されてきている。複数の資源が同時に制約となるような場合、捕食者は獲得資源のバランスを最適化することが考えられる。しかし、こうした摂餌戦略が種間競争からどのような影響を受けるか、逆に、これらの戦略が競争種間の共存にどのような影響を与えるかついてはこれまで考えられてこなかった。
そこで本研究では、これらの疑問について化学量論を考慮した摂餌を行う個体ベースモデルを用いた計算機シミュレーションによって調べた。その結果として、餌をめぐる競争種間では餌の化学量論を考慮した場合のみ餌利用についてのニッチ分化が進化することで、これまでの理論研究による予測と比べて2種以上の複数種が容易に共存しうることを示した。