| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-513
イモリ属2種の系統解析と系統地理解析をミトコンドリア(mt) DNAの塩基配列を指標として行った。日本本土のアカハライモリでは東北から関東に分布する東日本群がまず他から分けられ、次に中部から北陸、近畿の大部分、中国東部にかけて分布する中部日本群が他から分けられた。残りの西南日本の集団は近畿南部から中国西部、四国、九州北中部にかけて分布する西日本群と西九州および南九州に分布する西南九州群に分けられた。琉球列島のシリケンイモリは奄美諸島の奄美群と沖縄諸島の沖縄群に分けられ、後者はさらに沖縄島北部で分布域を重ねる2亜群に分けられた。アカハライモリの東日本群は、アロザイム、形態、配偶行動の違いで区分される東北集団と関東集団を含むが、mtDNAでは区分されず、また群内の遺伝的分化の程度も低かった。このことから先行研究で区分された2集団間での遺伝子浸透が生じてmtDNAの分化が消失した可能性と、氷期の分布域縮小に伴う瓶首効果のあと分布拡大が生じた可能性が考えられた。また形態と配偶行動の特徴で区分される近畿西部、中国東部の篠山種族は、今回の解析ではアロザイムの結果と同様、中部日本群に含まれ、独自性は認められなかった。このことは篠山種族の形態や行動の分化が急速に進んだ可能性を示唆する。アロザイム分析で独自性が高いとされた南九州集団は西九州の個体群とまとまった。ただアロザイム分析でも、南九州集団の特徴とされる対立遺伝子が低頻度ながら西九州の個体群で見出されており、必ずしも両解析結果が矛盾するわけではない。シリケンイモリの沖縄群内の2亜群は異所的に分化した集団が二次的に分布域を重ねたものと思われるが、補足的に行ったアロザイム分析では2亜群が区別されないことから、現在は一つの任意交配集団を形成していると考えられる。