| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-514

インドレフュージア仮説の検証 1.ツムギアリ

*朝香友紀子(北大・院・環境),東典子(北大・院・水産),平田真規(北大・院・環境),東正剛(北大・院・環境)

ツムギアリO.smaragdinaは南アジア、東南アジア、オーストラリア北部の熱帯地域に広く分布している。ミトコンドリアDNAの系統解析を用いた先行研究によるとO.smaragdinaは7グループに分かれ、地理を反映した遺伝構造が見られる。しかし、地理的には1200kmしか離れていないインド東部の個体群とバングラデッシュの個体群との間に大きな遺伝的差異が示されている。インド東部の個体群は系統樹の最初に分岐しており、他のどの地域と比べても遺伝的差異が大きく、最終氷河期後の分散では他の地域の個体群とは異なる場所から放散したと考えられる。これはインド南部が最終氷河期のレフュージアとなっていたとの説と一致する。先行研究ではインドのツムギアリは1個体群しか採集されておらず、インド個体群の位置づけは不十分なため、インドレフュージア仮説の検証にはインドの他の地域の個体群との比較が必要である。本研究はそのインドレフュージア仮説の検証を目的として行った。

インド南部2ヵ所、インド北部1か所からの6コロニー(18個体)について、ミトコンドリアDNAのCO1およびCytB領域の計1672bpを解析し、先行研究の系統樹に加えた。解析の結果、インドの個体群は単系統のクラスターを形成し、そのクラスターは進化の初期に独立したことが示された。また、地理的距離の離れた個体群間でも遺伝的距離は小さく、インド個体群内の遺伝的多様性が低いことが示唆された。インド個体群はより祖先的だと考えられるため、遺伝的多様性が高いことが一般に予想されるが、遺伝的多様性が低いとの結果はボトルネックの影響を受けたものと考えられる。これより、最終氷河期に熱帯雨林が縮小した際にインドの一部がレフュージアとして機能し、そこから現在のインド個体群が分散したことが示唆された。


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