| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-517
生物の新たな環境への適応は、結果として新たな形質を進化させ、さらには地理的な隔離を介して異所的・側所的種分化を促進させうる。つまり、環境適応は生物多様性を生み出す主要な原動力である。近年のゲノム学の隆盛により、野外での環境適応を遺伝子レベルで解析することが可能となってきた。そこで本研究では、モデル植物シロイヌナズナに最近縁なハクサンハタザオとその派生的高地生態型であるイブキハタザオを対象に、シロイヌナズナ用に開発されたマイクロアレイを用いた網羅的ゲノム多型解析から、高地適応に関与したゲノム領域を明らかにすることを試みた。
伊吹山は標高1377mであるにも関わらず、強風と土壌の影響から山頂付近には亜高山草原が広がっている。上部にはイブキハタザオが、下部にはハクサンハタザオが生育しており、両系統は混じり合うことはなく、分断選択が働いていると考えられる。そこで、イブキハタザオとハクサンハタザオの複数個体間でのゲノミックアレイ解析を行なった結果、分断選択が働いていると考えられるゲノム領域は42497領域中18領域(0.04%)のみであり、凍結防止や乾燥耐性などに関係しそうな脂質関連遺伝子や糖タンパク関連遺伝子、呼吸量に関係しそうなシトクローム遺伝子、複数の病原菌抵抗性遺伝子、茎の形態に関係しそうなNACファミリーの遺伝子などが含まれていた。また分断途中と予想されるゲノム領域も126領域(0.38%)存在していた。逆に、ハクサンハタザオのもつ変異がイブキハタザオに持ち越されているゲノム領域は全体の99.6%であり、適応的な分化が起こる際に新しい遺伝的変異生じてそれが固定することは極稀であることを示している。適応的分化において、祖先集団のゲノム構成は言わば進化の源であると同時に制約でもあるかもしれない。