| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-518

阿蘇くじゅう国立公園内草原に生育するハルリンドウの遺伝的多様性は低い

味岡ゆい,沼田早都希,南基泰(中部大院・応生),矢原正治(熊本大院・薬)

阿蘇は「放牧」,「採草」,「野焼き」などの人為的撹乱によって維持管理されてきた日本最大の草原地帯である.この草原には大陸系遺存植物などの希少種が生育しているが,近年,草原維持管理の低迷による生育地環境の悪化から,個体数が著しく減少している.このことは,各希少種の遺伝的多様性をも低下させた可能性が示唆されるが,現在までに,阿蘇に自生する植物の遺伝的多様性を評価した報告はない.本報告では阿蘇くじゅう国立公園内に自生する植物のモデルケースとして,草原地帯に比較的多く自生するハルリンドウの遺伝的多様性評価を行った.

阿蘇くじゅう国立公園内50箇所について,葉緑体DNA(trnS-rps4)の遺伝的多様性評価を行った結果,4ハプロタイプ(ハプロタイプVI-1,VI-2,IX-1及びIX-2)が認められた.ハプロタイプVI-1は外輪山(40箇所),ハプロタイプVI-2は久住(11箇所)で広範囲な分布域を示したのに対し,ハプロタイプIX-1及びIX-2は中岳周辺のみから確認され,各ハプロタイプについて集団間変異が認められた.一方,集団内変異は中岳周辺(2箇所)及び久住(1箇所)以外からは確認されなかった.著者らは,岐阜県恵那市調査地域(阿蘇の1/200スケール)で5ハプロタイプ(I-V型)を確認し,HSIモデルによって人為的撹乱頻度が高い草地のような生育地では,遺伝的多様性が低くなる傾向を見出している(味岡ら,2008).同様に阿蘇の草原地帯に自生するハルリンドウの集団内変異が低くなった.このことから,長年人為的管理によって維持管理されてきた阿蘇の草原地帯に自生する他の植物種においても,遺伝的多様性の低下が起こっているかの検討をしていく必要がある.

引用文献:味岡ら(2008)環境アセスメント学会2008年度研究発表会.


日本生態学会