| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-540
性比調節は、理論研究の予測が多くの実証研究によって支持され、進化・行動生態学の中で最も成功を収めてきた分野のひとつである。しかし、理論研究では性比を調節する母親の戦略を予想するのに対し、実証研究では子供が成長した後の性比や雌雄の生産スケジュールが測定されることが多い。このため、成長期間中の死亡率や成長速度が雌雄間で異なる場合は、正確な値を反映していないことになる。ここでは、雄が羽化パッチから分散しない、寄生バチMelittobiaの性比調節行動に着目する。局所的配偶競争(LMC)理論に対し、本種の性比はパッチに産卵する母親の数によらず、一定して極端な雌偏向性比(雄率1~4%)を示す。しかし、これらの性比は羽化時に測定されており、雄成虫どうしは殺し合いの闘争を行うが、幼虫期の行動についてはわかっていない。
そこで、マイクロサテライトの遺伝子型を調節した雌と雄を交配させ、卵のDNAから子の性を判定した。その結果、産卵時の性比は羽化時の性比と有意な差が見られず、産卵の時点で極端な雌偏向性比を示すことがわかった。次に、母親による雌雄の生産スケジュールを測定するため、様々なタイミングで産卵している母親を取り除いた。その結果、産卵の初期に必ず1卵雄を産み、その後は一定の間隔で雄を産むことがわかった。また、性比の分散はランダムな二項分布による分散よりも小さく、雌雄の産み方は母親によって正確に調節されていることがわかった。この少数の雄をコンスタントに生産するスケジュールは、LMCモデルに非対称な雄間闘争の効果を組み込んだモデル(Abe et al., 2007)の予測に一致する。以上のことから、極端な雌偏向性比は母親によって調節され、従来のLMC理論よりも雌偏向を示す理由のひとつに、雄間闘争の効果が考えられることがわかった。