| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-544
チョウ類では、雌が交尾嚢内の精包を崩壊させると再び交尾を行なうので、雄は大きな精包を注入して崩壊までの時間をかせぎ、繁殖成功度を高めようと努力している。また、一般に、1回の交尾で注入する精子の数が多い雄ほど精子競争に有利だと言われてきた。したがって、雌が多回交尾制で精子競争の激しい種の雄は、単婚制の種の雄より大きな精包と多数の精子を生産するよう進化したと考えられている。しかし、これらの注入物質の生産にはコストがかかるため、雄は各注入物質の量を交尾ごとに調節している可能性がある。多回交尾制のナミアゲハと単婚制のキアゲハを用い、1〜5日齢までの未交尾雄を未交尾雌と交尾させ、交尾終了直後に雌雄を解剖し、精包の重量や注入精子数と雄体内に残存していた精子数を調べたところ、精包の生産量や精子の生産数(注入数+残存数)は両種とも加齢と共に増加することがわかった。ここで、精包と無核精子の生産速度に両種で差はなかったが、有核精子束のそれはキアゲハがナミアゲハの2倍以上となっていた。注入精子数は両種とも生産数と共に増加したが、増加は徐々に緩やかとなり、最終的に停止して上限が存在した。有核精子束数の上限はキアゲハが259本でナミアゲハ(95本)の約2.5倍となったが、無核精子はどちらも55万本程度と差がなかった。一方、1日齢で交尾させた雄を1〜5日間休息させて再び未交尾雌と交尾させたところ、休息日数と共に精包や精子の生産量は増加し、特に、精包の生産速度はナミアゲハがキアゲハの2倍となっていた。注入精包量が1日齢における交尾時の量(どちらの種も約6mg)まで回復するには、ナミアゲハで約3日、キアゲハで約5日必要であった。これらの結果から、精包と精子の生産量にトレードオフの関係があり、多回交尾制の種の雄は、精子より精包の生産に重きを置いていると考えられた。