| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-549

クサアリ亜属5種の形態分類とCHC組成の比較

*遠藤真太郎(信州大院・理・生物), 市野隆雄(信州大・理・生物)

クサアリ亜属は,その生態的なインパクトから温帯域の森林生態系において重要な生態的地位を占めている.また,様々な節足動物と共生・寄生関係を結ぶことから,共進化研究においても重要なモデル生物である.

クサアリ亜属の分類と学名は近年整理され,現在日本産は5種が記載されているが,形態による同定が難しく研究の妨げとなっている.また,日本産のクロクサアリLasius fujiとヨーロッパ産のL. fuliginosusの独立性に依然議論の余地があることや(丸山 2005),形態に異常のあるコロニーが発見されることもあり,分類は未だ混乱している.本研究では,体表炭化水素(CHC)とmtDNAの情報を得ることで,クサアリ亜属5種の形態分類との照合を試みた.

本州中部地域の計27コロニーからワーカー個体を採集し,種特異的な仲間認識フェロモンである体表炭化水素(CHC)の分析を行った.また,mtDNA系統樹を作成し,これらを形態同定と比較した.

形態同定の結果,形態分類の困難なコロニーが4コロニー発見された.これらのコロニーは,CHC組成はすべてクロクサアリ型を示したが,mtDNA系統樹では,クロクサアリL. fujiと単系統になるものと,L. fuliginosusと単系統になるものに分かれた.さらに,形態的には両種以外のクサアリ亜属に類似したものがあった.これらのことから,この4コロニーは種間交雑由来である可能性が示唆された.一方,クロクサアリを除く4種では,形態・CHC・mtDNAそれぞれの情報が一致した.今後はヨーロッパ産L. fuliginosusのmtDNAおよびCHCを分析し,さらに核遺伝子を用いた系統解析をおこなうことで種間交雑の実態,およびL. fujiL. fuliginosusの系統関係についてより詳細に検討する必要がある.


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