| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-555
最近の松浦らの研究により、シロアリの繁殖様式の常識を根底から覆す事実が明らかになった。野外の成熟コロニーの遺伝解析により、ヤマトシロアリの創設女王が、補充女王(巣内で創設女王の生殖を引き継ぐ)をほぼすべて単為生殖で生産していることを発見した。これまで、補充女王は創設女王と創設王の娘だと考えられており、女王の死後は近親交配によって生殖が引き継がれると考えられてきたが、野外における繁殖システムの実態は全く異なるものであった。また、創設女王は補充女王を単為生殖で産む一方、ワーカーや有翅虫(巣を飛び立って独立創設)は有性生殖で生産することも明らかになった。
この発見を受け、本研究では単為生殖で生産されたニンフが優先的に補充生殖虫へと分化する至近的メカニズムについて分析を行った。野外において、補充女王はすべてニンフから分化し、ワーカー型が生じることはない。カースト分化経路としては、補充女王も有翅虫もニンフから分化するが、上述のように、単為生殖による女王位の継承を行うためには、有性生殖の子よりも単為生殖の子の方が優先的に補充女王に分化できるメカニズムが存在すると予測される。単為生殖のニンフが不足する場合、有性生殖のニンフから補充女王が補われるが、このような際にも遺伝的条件によって繁殖順位が決まるのか検証した。野外コロニーおよび半野外コロニーから、単為生殖由来の補充女王と有性生殖由来の補充女王を採集し、形態計測とマイクロサテライト分析を行った。その結果、ある特定のマイクロサテライト遺伝子座がホモである方が、ヘテロの個体よりも有意に卵巣が発達していることが明らかになった。シロアリの単為生殖は末端融合型のオートミクシスであり、子のほとんどはホモ接合となる。本研究により、なぜ創設女王の単為生殖の子が優先的に補充女王に分化できるのか、その遺伝的背景が示唆された。