| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-557
多くの社会性昆虫のコロニーでは、女王が中心的に繁殖を行う。比較的原始的な社会を営むグループでは、ワーカーも潜在的には繁殖能力を持つ場合が少なくないが、ワーカー繁殖は女王や他のワーカーからの攻撃行動や食卵によって通常は抑制されている。これらの個体間相互作用においては、体表炭化水素(CHC)を主とした化学成分が重要な指標となる。CHC組成は、カースト間で差異があるだけでなく、個体の生理状態(卵巣発達-未発達など)を反映してその構成比が変化することが報告されている。しかし、こうしたコロニー内での繁殖競争と化学成分の関係についての研究はアシナガバチ類においては十分になされておらず、既存の研究例も海外の種に偏っている。
アシナガバチ類のワーカーは一般的に女王在巣下では繁殖しないが、女王を喪失した孤児巣では一部の個体が卵巣を発達させて繁殖を行う。多くの種では産卵ワーカーは未交尾であり、無精卵によるオス生産のみを行うが、一部の種ではワーカーが早期羽化オスearly maleと交尾し、受精卵の生産も行う。日本産アシナガバチ類では、唯一コアシナガバチPolistes snelleniにおいて同様の生態が報告されている。
演者らは、特徴的な生態を持つ本種の妊性とCHC組成の関係を調査した。その結果、本種の成虫のCHCは多数の成分の多少によって特徴付けられ、全体の組成にも複数のパターンが見出された。本講演では、本種の各カーストと各生理状態の個体を比較し、それぞれが生理的にどのような位置付けになるのかを考察する。これにより、女王とワーカーの繁殖競争を生理的な差異を指標として評価する。