| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-566

どんなまゆなら食われない?〜ヒロヘリアオイラガのまゆ隠蔽コストの検出〜

*坪井助仁,西田隆義,藤崎憲治(京大院・昆虫生態)

被食者は様々な方法で捕食者から身を守っている。その方法の一つとして隠蔽が知られている。これまでの隠蔽に関する研究では、主に適応度上の利益に着目しており、コストが考慮されることは稀であった。その理由として、隠蔽度に大きな種内変異がないことが多いために、隠蔽のコストを測りにくいという方法論上の問題があった。ヒロヘリアオイラガParasa lepida(以後、ヒロヘリ)は侵入昆虫で、1980年代に西日本各地で大発生した。しかし、その後急速に衰退し、現在では大都市部の街路樹など鳥の捕食圧が低いところにのみ生息するようになっている。ヒロヘリは隠蔽的な色彩の繭を寄主樹の幹に作る。繭は、冬期にシジュウカラやコゲラなどの高い捕食圧にさらされやすい。しかし、鳥の捕食圧は生息地によって大きく異なり、捕食圧が強い生息地では繭はより隠蔽的にみえた。本講演では、種内に隠蔽度の大きな変異が存在するヒロヘリの繭を用いて隠蔽のコスト評価を試みた結果について報告する。

繭作り行動の観察から、捕食圧の高い生息地では繭を突起物の縁に寄せて作る傾向が強いことがわかった。これに対して、捕食圧の低い生息地では繭は平坦で目立つ場所に作られることが多かった。それぞれの生息地で採集した繭のサイズを測定したところ、繭体積には違いはなかった。しかし、捕食圧の高い生息地では繭の短径が短く、高さが増していた。この繭の形の変化は、突起物の縁に接触して営繭する結果、繭の形が歪んだためと考えられた。繭作りにかかるコストは、実験室内において、繭作り開始直前の老熟幼虫から羽化成虫への体重減少量として評価した。その結果、突起物の縁に作られた繭は平坦面に作られた繭に比べて体重減少量が大きい傾向があった。これらの結果は、繭を隠蔽的にすることにかなり大きな適応度上のコストがかかることを示唆した。


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