| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-576
食植性昆虫にとって食草は単なる餌資源ではなく生活の場であるため、食草の変更は生活史全般に大きな影響を及ぼし、生殖隔離を導き新しい種へ進化する可能性がある。特に、新食草のフェノロジーがこれまでのものと大きく異なる場合、植物のフェノロジーと同調するような昆虫の生活史の変更が不可欠である。交配・産卵・発育と生活史の全てをほぼ同じ植物種上で行うルイヨウマダラテントウは、年1化・成虫越冬であり、種内に、展葉時期・資源量・葉の質などが異なる食草を利用する地域集団を複数含む。本研究では展葉時期が短く盛夏には枯死するナス科ハシリドコロを利用する集団と、木本であり晩秋まで利用できるエゴノキ科オオバアサガラを主に利用する関東地方西部の2集団に着目し、食草への適応と生活史の同調について検証した。その結果、どちらの集団もそれぞれの食草のフェノロジーによく一致した生活史を示した。すなわち、ハシリドコロ集団は食草の展葉する4月下旬に越冬成虫が出現し、新成虫はハシリドコロがほぼ枯死する8月上旬迄に羽化し、ただちに越冬に入った。一方、オオバアサガラ集団は成虫の出現時期がより長く、新成虫は10月上旬まで観察された。産卵スケジュールにも同様の傾向がみられ、ハシリドコロ集団では6月中旬以降の産卵は確認できなかったが、オオバアサガラ集団では8月まで卵が観察された。両集団の幼虫をハシリドコロ、オオバアサガラの2食草で飼育したところ、両集団ともに同じ傾向を示し、ハシリドコロで発育期間が短く、蛹重が軽くなった。これらの結果より、野外でみられた生活史の違いには遺伝的差異がなく、利用している食草の違いによってもたらされた可塑的なものである可能性が示唆された。