| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-583
昆虫の中には、野外で低温条件下にあるにもかかわらず速い成長速度を実現させているものが存在する。彼らは日光浴によって体温を高め、成長を促進させていると考えられている。しかし日光浴と成長速度との関係を調べた研究は少なく、またその日光浴が積極的な行動であるか否かもまだよく分かっていない。これは温度に対する選好性を調べることが容易ではないためだと思われる。
本研究で用いたウスバシロチョウParnassius citrinariusの幼虫は早春の融雪直後に孵化し、平均気温約13℃という低温条件下でわずか1か月で成長を完了させる。幼虫の体色は黒色をしており、しばしば陽光下にいることが観察される。そこで我々は本種の幼虫を用いた室内実験および野外観察を行い、「積極的に日光浴を行って体温を高めることで幼虫の成長が促進される」という仮説の検証を目指した。
まず、暖かい区画と冷たい区画を創出して幼虫の選好性を調べるため、ペルチェ素子を利用した装置を製作した。そして両区画を幼虫に呈示し、滞在時間を記録した。次に、野外での幼虫の体表温を晴天下と曇天下に分けて計測し、気温との比較を行った。さらに、太陽光のない室内と太陽光のある野外とで成長期間を比較した。
これらの実験および観察から、本種の幼虫が暖かい場所を好むこと、および幼虫の体表温が晴天下において気温より10℃程度も高くなることが分かった。また、太陽光を利用できる野外では、低温であるにもかかわらず成長期間が短かった。なお、温暖な時期に成長する近縁種アゲハPapilio xuthusの幼虫では、このような結果は得られなかった。以上のことから、本種幼虫は太陽光の当たる暖かい場所を積極的に選択することで自身の体温を高め、成長を速めていることが示唆された。