| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-586
近年、森林環境等の変化に伴い野生動物による農林業被害などが発生し、野生動物と人との軋轢が大きな社会問題となっている。しかしながら、これまでクマ類に関する研究は、森林に生息する個体群を対象にするものが多く、人と動物の軋轢が高い里山等に生息するクマ類の生態研究は少ない。そこで本研究では、GISを用いて里山に生息するツキノワグマの行動特性を明らかにすることを目的とした。
本研究は、長野県北佐久郡軽井沢町において2002年から2007年の間に取得された11頭の雌グマのテレメトリー(電波発信器による位置特定)データを利用した(※1)。GISを用いてデータベース化した後、各個体の年間及び各季節の行動圏を固定カーネル法にて求め、推定した行動圏の面積を算出した。その結果、夏の行動圏は秋の行動圏に比べ小さい事が明らかになった。一般にクマ類では、夏のほうが秋に比べ餌資源が乏しいため行動圏が大きくなる事が知られている。本調査地では、農耕地や別荘地が多いことに起因し、ツキノワグマにとって夏の餌資源は比較的高く、局所的に分布していることから、夏の行動圏が秋に比べ小さかったと考えられた。また、個体間の行動圏の重複度と重心点の距離を測定した。その結果、個体間の重心点距離は近い一方で、重複面積は小さい事が明らかになった。このことは、本調査地に生息するツキノワグマは、排他的な利用空間が存在する事を示唆している。おそらく、本調査地における餌資源の分布が森林環境に比べ局所的であることから、排他的な利用空間が検出されたと考えられた。
*1)本研究におけるGIS分析に供したクマの位置データは、軽井沢町の委託事業である「ツキノワグマ対策事業(受託者:NPO法人ピッキオ)」の一環で、2002年以降に得られた情報を使用させていただいた。