| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-596

齢集団間にみられる栄養状態の格差−長距離渡りはリスクになるか−

岡 奈理子(財 山階鳥類研究所・鳥学研究室)

多くの動物の死亡リスクは季節移動時に増大し、通常、リスクの大きさは個体の齢に依存する。齢集団別の死亡リスクを栄養状態で検証するため、オーストラリア東南部の島々で集団繁殖し、4月下旬から5月下旬にかけて北部北太平洋へ長距離渡りし、越夏する外洋性鳥類ハシボソミズナギドリPuffinus tenuirostris(体重550g、ハト大)を用いて、渡り前後と越夏中の栄養状態を、成鳥とその年生まれの若鳥間で比較した。

成鳥は渡り前と比較して、渡り直後、蓄積脂肪のやや大きな減少と胸筋量のわずかな減少が起因し体重減がみられていたが、造血組織の骨髄の組成割合は変化せず、肝臓は肥大化途上にあり、既に活発な採食活動に入っていたことを示した。肝臓の肥大は越夏開始後の1ヶ月間で急速に進行し、繁殖期をはるかに上回った。これにあわせて蓄積脂肪の回復速度が早かった。

一方、渡り直後の若鳥は、巣立ち期に比べて蓄積脂肪の激減と筋肉量の減少により体重が激減しており、骨髄の組成割合も変化していた。若鳥の肝臓と胸筋量も越夏中に増加したが、成鳥より顕著に小さく、蓄積脂肪の回復が著しく遅れた。栄養状態が良好な時には全身脂肪量に無関係で一定の値を保った胸筋内の蛋白質量は、脂肪の減少に伴い減り、脂肪が10g以下で急減した。

臨界値とみなせる渡り途中に大量死した若鳥の体の栄養指標値を基準に、栄養面から二つの齢群集を判断すると、成鳥は長距離渡り時にも栄養面からの死亡リスクが極小な一方、若鳥ではリスクが大きく、渡り終了後も栄養面からの死亡リスクを持ち続けることが示された。以上の結果から、成鳥にとって季節的大移動は、死亡リスクにならないが、若鳥には、大きなリスクに働くことが分かった。さらに若鳥は、越夏中の気象、海洋環境の変化へ栄養面からの抵抗性が低いことも示された。


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