| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-292
河畔林・渓畔林は攪乱によって生物多様性が維持されている.攪乱に対応して発達する植生については明らかにされてきたが,地下部について扱ったものは少ない.しかし,生態系の把握には分解者を含めた総合的な理解が必要である.そこで本研究では,攪乱からの経過年数の違いから遷移段階が異なる林分における土壌動物相を比較し,地上部と地下部は遷移が同調して進行しているのかどうかを明らかにすることを目的とした.裸地の形成後発達した河畔林に,撹乱後17年目で今後遷移後期に移行すると考えられる2つの林分(調査区1,2),攪乱後約20年目で循環遷移を示す林分(調査区3),攪乱後数年目の遷移初期でわずかに草本が生育する裸地(調査区4)を設定し,それぞれの調査区において青木(1989)の「大型土壌動物による自然の豊かさ評価法」を用いて土壌動物相を比較した.調査区4は下層植生および上層植生が未発達であり,リターの供給量が少なく,林内気象も不安定であった.土壌動物相は貧弱で環境の変化に鈍感なグループを中心に構成しており,地下部の遷移が進行していないことが推測された.調査区2および調査区3においては,豊富なリターの供給や下層植生の発達など,土壌動物にとって良好な生息環境が形成されており,土壌動物相も豊かであった.しかし,調査区1は調査区2と同様の発達した環境が形成されているにもかかわらず,土壌動物相が貧弱であった.このことは,地下部は地上部の遷移の進行に一致していないことを示すものとなった.以上のことから,攪乱後の遷移状況の理解には地上部と地下部を併せた総合的な考察が必要であることが示唆された.