| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-298
渓畔林では、河川撹乱で形成される多様なハビタットが多種共存を可能にするといわれてきた。これまで、実生の発生と定着において環境要求性の種間差が報告されているが、更新ニッチの違いを明らかにする上で定着した個体の競争力や耐陰性、すなわち稚樹バンクの持続性についても検討する必要がある。稚樹バンクの持続性は、多くの種のセーフサイトと考えられている土石流堆積地の稚樹バンクの追跡データが検出しやすいだろう。本研究では、堆積地がどの樹種のセーフサイトであるかを明らかにした上で、これら稚樹バンクの持続性と成長過程の関係を調べた。
岩手県のカヌマ沢渓畔林試験地で1988年に生じた土石流堆積地(2ヶ所、計1295m2)で更新した実生と稚樹(樹高30cm以上、胸高直径5cm未満)を標識し、1989〜2007年まで1〜3年おきに追跡した。堆積地がどの樹種のセーフサイトとなったのか検証するために稚樹の組成を調べた結果、出現頻度の高かったオヒョウ、サワグルミ、イタヤカエデ、トチノキ、ケヤキ、ミズキの6種を解析対象とした。また、実生新規加入数、稚樹密度、樹高の経時変化から、稚樹バンクは2007年までに新規加入段階から稚樹バンクの維持段階に移行していると考えられた。
次に、回帰分析で更新稚樹の生存時間と成長速度に影響する要因を光条件、全個体密度、他種の密度、同種の密度、個体のサイズから選択することにより、持続性を評価した。さらに、この持続性の各要因に対する依存性を種間比較した。これらをもとに、生存と成長のトレードオフを考慮しつつ、渓畔林での多種共存がニッチ分割やストレージ効果によってどれだけ説明できるか議論する。