| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-300
林床の光環境は、林冠の状態と下層植生の両方の影響を受ける。天然林では林冠のモザイク構造が林床の光環境を空間的に不均一にする。さらに、落葉広葉樹林では展葉時期が異なる林冠樹種が混在し、閉鎖林冠下であっても林床の光環境の季節変動は、林冠樹種によって異なる。一方、ササ型林床のブナ林では、ササ層の影響を強く受けるため、林冠状態が異なっても林床は一様に著しく暗くなる。ササが一斉開花枯死した際には、光環境が一変し、林床に多様な光環境が生じると考えられる。
ブナ林の更新において、ギャップ形成とササ一斉開花枯死が重要だといわれている。そこで、林床のチシマザサが1995年に一斉開花枯死した十和田湖南岸域甲岳台ブナ林の1ha調査区において、ブナ稚樹集団の成立に林冠やササ層の状態がどう寄与しているかを明らかにするための調査を行った。
4m2プロット(85か所)を格子状に配置し、ササ層の上の光条件の季節変化・ササ密度・ブナ稚樹の密度やサイズ、当年伸長量を測定した。プロットをササ開花域(Dead区)と非開花域(Live区)に区分し、さらに林冠状態をブナ・ホオノキ・ギャップ・その他に分類して、比較検討した。
林冠の状態によってササ層の上の光環境は異なり、5月6日の開空度はギャップ下≒ホオノキ樹冠下>ブナ樹冠下であったが、6月3日にはギャップ>ホオノキ≒ブナとなり、その状態が9月18日まで継続した。Dead区のブナ実生・稚樹密度はLive区より明らかに多く、ササ層の欠如によりブナ実生・稚樹バンクの形成が促進されることが示された。Dead区内では、林冠の状態によって5cm以上のブナ稚樹密度が異なり、ギャップ≒ホオノキ>ブナとなった。これらのことから、ササ一斉開花枯死後のホオノキ樹冠下はギャップと並んで、ブナ稚樹の更新サイトとして働いている可能性が示唆された。