| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-302

同所的に生育するブナ・イヌブナの実生定着特性:制限要因の影響の種間差

*石塚航,梶幹男(東大・演習林)

太平洋側山地帯には、しばしば同属であるブナ(Fagus crenata)とイヌブナ(Fagus japonica)両種の混生する天然林が形成される。2種の同所的な分布は更新動態における種特性の違いを反映しているとみられるが、両種の実生定着過程を同所・同時期に追跡し、更新にとって重要な実生の生育を制限する因子とその影響を比較した例はない。本研究では、連続年で発生した2種の実生を同所で追跡し、(1)実生分布に親木、地形、および環境因子がどのくらい影響を及ぼしているか、(2)近年増加し、実生の生育を強く制限するシカの食害影響とそれに対する応答が種間で異なるか、を検討した。

調査地は東京大学秩父演習林のブナ・イヌブナ天然林とし、林内に8.3m四方、計95個の実生調査メッシュを設定した。メッシュ内に生育する両種実生を全て個体識別し、定期的なセンサス調査を行った。両種の1年生実生期における、死亡率とその要因を算出し、期首(5月)と期末(12月)の実生数に及ぼす環境条件の影響を一般化線形モデルとモデル選択により解析した。さらに、食害後の応答を検討するため、2008年夏期に実生の再展葉の有無を調査した。

1年生実生の主たる死亡要因は食害で、生残率はイヌブナ(65.8%)の方がブナ(36.5%)よりも高かった。食害を受けた実生の再生反応として、前年の葉痕付近からの再展葉が認められ、再展葉率もイヌブナ(75.5%)の方がブナ(52.0%)よりも高く、この特性が個体数の維持に寄与していた。分布解析から、両種実生は親木因子から直接負の影響を受けたものの、他の因子に対する挙動は各種成木の地形選好性との関連が示された。イヌブナは期首、期末ともに地形変化の大きいところが実生数に正の影響を与えており、成木の分布と関連していた。一方、ジェネラリストのブナは1年生実生期においても特定の因子への依存は検出されなかった。


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