| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-313
ブナは冷温帯の代表的な種でありながら太平洋側では更新が危ぶまれている.しかし太平洋側でも冷涼な高標高域では更新が順調な林分が存在するため,ブナの更新適地は温度的な制約を受け,温暖化により変動していると考えられる.そこで現在におけるブナの更新適地の温度領域を明らかにし,その理由を肥大生長量から推察して小氷期後の温暖化に伴う更新適地の変動を推定した.
関東周辺の山地に7調査地を設け,数ha以上の面積でブナの毎木調査を行なった.また5つの調査地では調査地ごとに10本程度のブナの年輪コアを採取した.さらに既発表資料から全国15の太平洋側ブナ個体群の毎木調査データを解析に用いた.
更新適地の解析結果として各調査地における最も出現頻度が高いDBH階級の中央値と暖かさの指数(WI)には正の相関が見られた.また最小のDBH階級がピークとなる調査地は全てWI≦60の領域に含まれた.よってWI≦60となる温度領域が太平洋側ブナ個体群の更新適地と考えられる.
肥大生長量の時間変動を年輪コアデータから解析した結果,現在WI≦60の調査地ではブナの肥大生長量が時間経過とともに増加したのに対し,WI>60では減少した.よって現在WI≦60となる領域はブナの生産力が高いために更新適地となっている可能性がある.
更新適地の変動推定のため気象庁の観測記録から横浜におけるWIを算出したところ,ヒートアイランドを考慮しても過去130年でWIは20ほど上昇していた.よって現在の温度的上限(WI:85)の場所は130年前にはWIが65であり,ブナの更新が比較的順調であった可能性がある.その後の温暖化により更新適地は現在WIが45〜60の場所まで移動するが,当時定着した個体が残存して温度的上限のブナ林が維持され,現在のブナの分布範囲(WI:45〜85)が形成されたと推察された.