| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-315
九州の中央部に位置する阿蘇地域には,国内でも最大規模の半自然草原が現存している。この草原植生は,火入れや放牧,採草といった人為の下で維持されてきたと考えられているが,近年,阿蘇地域を対象とした古生態学的な研究によって,当地域ではすでに有史以前から人為の影響を受けて草原植生が維持されてきた可能性が指摘されている(小椋ほか,2002;宮縁・杉山,2006,2008)。しかし,広大な面積を有する阿蘇地域における草原植生の履歴や成立要因を明らかにするためには,さらに分析地点を面的に増やすとともに,複数の分析手法を組み合わせて,多面的な解析を行う必要がある。そこで本研究では,草原植生の履歴に関する情報の乏しい阿蘇外輪山北部に位置する2地点の露頭から採取した完新世の土壌堆積物を用いて,植物珪酸体分析と微粒炭分析を行い,当地域における草原植生と火事の履歴について検討した。その結果,両地点ともに完新世初頭にはササ属が優勢で,そこにススキやチガヤを含むヒメアブラススキ連や,イチゴツナギ亜科などのイネ科植物が混生する草原植生が成立していたと考えられた。その後,7,300年前に降灰したアカホヤ火山灰(K-Ah)と考えられる層準の直下からササ属が減少をはじめ,代わってメダケ属が優勢な植生に移行する傾向が認められた。さらに,微粒炭分析の結果によって,完新世初頭から継続的に火事が起こっていたことが示唆されたが,特にK-Ah降灰以降の層準で多量の微粒炭が検出された。この微粒炭の出現傾向は,植生がササ属からメダケ属の優勢な状況に移行する傾向と対応しており,ネザサなどを含むメダケ属が優占する草原植生の成立に,火事が影響を及ぼしていた可能性が示唆された。