| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-323
農業不振により増加を続ける耕作放棄地のうち,条件不利地等の一部は森林再生による多面的機能の発揮が期待される。しかし耕作放棄地の森林再生の研究は十分でない。そこで本研究では,関東地方東部の広葉樹林に隣接した11筆の耕作放棄地を対象に,樹木実生と成木の分布を調査・解析した。
各筆内に,樹林境界に垂直に交わるトランセクト上に規則的に21点の1 m2区を設置し,樹木実生を記録するとともに,1点の450 m2区内で樹高1.3 m以上の樹木種の胸高直径を測定した。
各1 m2区の総実生数,総実生種数,広葉樹林優占種(シラカシ,落葉ブナ科,コナラ,ニレ科)の実生数を各応答変数とし, 1 m2区の植生高,樹林からの距離,上層木の有無,土壌pH,土壌EC,光制限の強度(放棄地植生の植比率と開空度の主成分分析から得られた第一主成分スコア)を固定効果,各地点をランダム効果とし,実生発生の確率分布にZIP分布またはQuasi-poisson分布を仮定した一般化線形混合モデルで解析した。また筆毎の実生数と放棄年数および成木の定着目安として算出した450 m2区の胸高断面積合計との順位相関を求めた.
解析より,全モデルで実生発生と光制限の強度および樹林からの距離に負の関係があった。土壌pHは総実生数,総実生種数,シラカシ実生数と正の関係,上層木の有無はニレ科の実生数と負の関係があった。筆毎の実生数と放棄年数に正の相関は無かったが(ρ= -0.287),胸高断面積合計に正の相関があった(ρ = 0.543)。
これらの結果,対象地域の耕作放棄地の一部では放棄年数によらず,光制限の強度や樹林からの距離により実生発生が阻害されると示唆された。このため成立植生や種子供給源となる樹林の管理が耕作放棄地での森林再生の促進に重要と考えられる。