| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-324
中部山岳の亜高山帯林では,シラビソ・オオシラビソ・コメツガ・ダケカンバなどが優占している.樹木の生活史の中で,実生期は最も林床の微地形の影響を受けやすい.実生の定着は,その後の個体の分布や個体間競争に影響するだろう.そこで実生の定着と微地形の関係と,それらがその後の個体間競争に与える影響を明らかにするため,長野県志賀高原と乗鞍岳の亜高山帯針葉樹林で調査を行った.
志賀では林床にササが分布していたが,乗鞍ではなかった.サイズ構造の結果から,2箇所ともモミ属が継続的な更新,コメツガ・ダケカンバが不連続的な更新をしていることが示唆された.志賀における実生調査で,実生の定着は種毎に異なる特徴を示し,コメツガが倒木・株・成木の根上り地形で,オオシラビソが土壌を主として,倒木,岩場などでも更新していた.攪乱依存のダケカンバの実生は観察されなかった.さらにオオシラビソの実生は,土壌表面でササによる定着阻害を受けていたため,ササの影響の少ない倒木や岩場,もしくはササの少ない土壌に集中分布していた.種特異的な実生の定着様式は成木の個体間競争にも影響していた.コメツガとオオシラビソは集中分布するため,同種からの生長阻害も受けていることが分かった.さらにコメツガはオオシラビソからの生長阻害も受けており,種内間競争が生じていることが示唆された.
志賀に比べてササのない乗鞍では,土壌更新に適したオオシラビソ,シラビソのモミ属がより優占していた.乗鞍においても種毎に集中分布する傾向があり,オオシラビソとシラビソについては種内競争が検出された.ササの有無や種特異的な実生の定着様式が,空間構造や個体間競争に大きく影響していることが示唆された.