| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-678

モンゴルステップにおける放牧停止がGPPに及ぼす影響

*浦野忠朗(筑波大・生命環境),川田清和(筑波大・生命環境),及川竹久(筑波大・生命環境),杉田倫明(筑波大・生命環境),鞠子茂(法政大・社会)

モンゴルステップでは、近年過放牧の問題が指摘されている。そのため、放牧がステップの物質生産に与える影響の評価が求められている。

モンゴルステップは高緯度・高標高に位置しているが、内陸性気候であることから夏期は気温が高く、年間の降雨量も200mm前後である。その結果、寒冷・湿潤な環境に適応したC3植物と高温・乾燥した環境に適応したC4植物が混生する植生を形成している。

C4植物は高い光合成能力を持ち、モンゴルステップでは乾燥地と撹乱地で優占する傾向があることから、放牧圧の変化で群落のC3・C4植物の比率が変化し、群落の生産力が変化することが考えられる。

本研究では、モンゴル半乾燥ステップにおいて、実験区として禁牧区と放牧区を設置した。調査は2002年から2006年にかけて行い、地上部バイオマス(AGB)とC4植物の割合の年変化を測定した。また、放牧停止1年後と4年後の夏期に総一次生産(GPP)の測定を行い、放牧区・禁牧区それぞれの群落GPPとC3・C4植物の寄与率を評価した。

その結果、禁牧区では放牧区より地上部バイオマスが高く維持されたが、その一方でC4植物の比率は年々低下した。また、放牧停止1年後では放牧区・禁牧区ともにAGB及び群落GPPとそれぞれに対するC3・C4植物の寄与は同じであった。しかし、放牧停止4年目には、禁牧区で放牧区よりAGBが有意に大きいにもかかわらず、群落GPPに有意差はなかった。これは、禁牧区では高いGPPを持つC4植物の寄与率が減少したことが一つの要因である。もう一つの要因は、群落の構造が変化したため自己被陰が生じたことである。

これは、草原生態系での中規模撹乱仮説を多様性のみならず物質生産の面からも支持する結果であるといえる。


日本生態学会