| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-699

針葉樹の縮合タンニンが土壌栄養塩可給性の変化を介して樹木実生の成長率に与える影響:熱帯山地林での植物-土壌フィードバック

*潮雅之, 北山兼弘(京大・生態研センター)

ボルネオ島、キナバル山の熱帯山地林では、低地熱帯林にはあまり見られないマキ科針葉樹が優占しているが、その優占メカニズムは不明な点が多い。

キナバル山地林のマキ科針葉樹は、同じ林内で優占している他の広葉樹に比べて縮合タンニンを多く含む葉を生産している。縮合タンニンは、土壌微生物への毒性や細胞外酵素の不活性化により、土壌で植物に利用可能な栄養塩を供給する無機化過程を阻害する。そのため、マキ科針葉樹の樹冠下土壌では酵素活性や微生物群集、植物への栄養塩可給性が他の広葉樹の樹冠下土壌と異なり、そこに生育する実生の成長率にも影響を与えている可能性がある。そこで本研究では、マキ科針葉樹の熱帯山地林での優占を説明するために以下の仮説を立てて検証した;マキ科針葉樹の縮合タンニンを多く含むリターは、樹冠下土壌の栄養塩可給性を変化させ、他の広葉樹実生の成長を抑制する。

まず、樹木から土壌への影響を調査するため、キナバル山地林で優占しているマキ科針葉樹(Dacrydium gracilis)とブナ科広葉樹(Lithocarpus clementianus)の樹冠下から土壌を採取、分析した。その結果、D. gracilisの樹冠下では、低いN可給性(純N無機化速度)、高いリン酸分解酵素活性、高い真菌/細菌比などが測定された。次にD. gracilis特異的な土壌の実生成長への影響を調査するためにD. gracilisL. clementianusの樹冠下に実生プロットを設置し、2006-2008年に樹高が同程度の実生の樹高成長率を測定した。その結果、D. gracilisの樹冠下では広葉樹の実生の相対成長率がL. clementianusの樹冠下より低かった。

以上の結果は、我々の仮説を支持しており、この植物−土壌フィードバック作用が熱帯山地林でのマキ科針葉樹の優占に貢献していることを示唆する。


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