| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB2-710
樹木は種ごとに特徴的な開葉落葉フェノロジーやシュートの角度を持っている。これらの形質は、葉齢にともなう最大光合成速度の低下や葉相互の被陰と関連しながら、一生育期間内における個体の物質生産に影響を与えている。しかし、現実の樹木での測定をもとにこれらの効果を定量的に把握することは困難である。
これらの効果を把握するため、樹木構造・フェノロジーと個葉における光獲得・光合成を詳細に再現する機能的・構造的樹木モデルを構築した。このモデルでは、ブナの稚樹で測定した枝葉の3次元構造・光合成の特徴を使用した。機能的・構造的樹木モデルを用いて、現実のブナに近い特徴を持つ稚樹モデル(「傾斜当年枝+一斉開葉」)と仮想的な稚樹モデル(「垂直当年枝+一斉開葉」「傾斜当年枝+順次開葉」「垂直当年枝+順次開葉」)の4種を作成し、それぞれ、個体の周辺に垂直方向に光の勾配がある場合とない場合で一生育期間内における稚樹の物質生産を計算した。
個体の周辺に垂直方向に光の勾配がない場合では、現実のブナに近い特徴を持つ稚樹モデル(「傾斜当年枝+一斉開葉」)に比べ、垂直当年枝や順次開葉の特徴を持つ稚樹モデルの年間光合成量は小さくなった。当年枝が垂直に近いと葉の間の相互被陰が強くなること、また、順次開葉では葉の寿命が短くなることがこの減少の原因である。しかし、個体の周辺に垂直方向に光の勾配がある場合では、垂直当年枝をもつ稚樹は傾斜当年枝を持つ稚樹とほぼ同じ年間光合成をした。これらの結果は、現実のブナで観察された「傾斜当年枝+一斉開葉」がブナの物質生産に貢献していること、垂直に伸びる枝は垂直方向に光の勾配がある場合に有利であることを示している。また、順次開葉が有利になるためには、光合成がより陽葉的であることや生育期間初期に獲得した光合成産物で同一生育期間中に新しい葉が作れることが必要であると考えられる。