| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB2-723
土壌呼吸は一般に拡散現象として取り扱われるが,降雨中に土壌水分の増加に伴って土壌孔隙の大きさが比較的短時間に変化するような場合に,土壌中の二酸化炭素(CO2)がどのような挙動を示すかは明らかになっていない.本研究では,複数深度での土壌中CO2濃度の連続計測から降雨時の土壌中のCO2濃度の変化を明らかにし,土壌呼吸速度の観測結果と合わせて土層内でのCO2の挙動を推定して,降雨が土壌呼吸速度及び土壌中CO2環境に与える影響を検討した.
観測は,東京大学千葉演習林袋山沢水文試験地で実施した.CO2濃度計(GMT-221 VAISALA)は,深度5cm,15cm,25cmに埋設した.また,土壌中のガス拡散係数の算出のために,土壌サンプルを用いて空隙率の深度分布を求めた上で土壌水分の連続測定を行った.
まず,通年観測の結果として,8月の無降雨期間の前後で土壌中のCO2環境が著しく変化することが明らかになった.年前半には土壌中CO2濃度は上昇を続け(7月の30cm深度で7%程度まで),8月の乾燥時に急激に減少して以降,年後半は顕著な上昇は見られない.年間でこのような非対称性をもつ土壌中CO2濃度に対して,土壌呼吸速度の年変化は7,8月をピークとする一山型であった.
次に,5月と9月の降雨中に実施した土壌呼吸の連続観測を比較した.ともに降雨中の土壌呼吸速度は減少するものの,土壌中CO2濃度に関して,5月には降雨の浸透に伴う土壌中CO2の押し出しによる低下,9月には降雨中の土壌中CO2の閉じ込めによる増加が生じていると考えられ,その変化は対照的であった.土壌中でのCO2の湧き出し・拡散量の深度分布の推定結果から,降雨イベントによって降雨が土壌中CO2環境に与える影響が異なっていたことの要因は,降雨前の土壌中CO2環境の違いにあることが示唆された.