| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB2-735
裸地から地表に植生が発達にするにつれて,表面積が増加し,表面コンダクタンスも増加するため,大気降下物の沈着効率が増加する,一方,根で吸収されたミネラルは植物体からの溶脱によって地表面に供給される。そのため,植生の発達は物質循環に大きな変化をあたえると考えられる。日本の山岳地帯で優占するハイマツ群落の葉面積指数は5m2m-2以上の値をとることがあり,その有無によって高山生態系に大きな影響を与えている。本研究では,北アルプス・立山(富山県)の浄土平において,無降雪期における降水,霧,ハイマツ群落の林内雨を採集し,樹冠遮断蒸発量を定量化し,ハイマツ樹冠から土壌への溶脱量を求め,ハイマツ樹冠が高山生態系の物質循環に及ぼす影響を評価した。ハイマツ群落の林内雨と樹冠通過雨を比較すると,2006 年〜2008年の8月と9月の樹冠による降雨遮断率は約41.6%となった。月降水量が増加すると,樹冠遮断率は高くなった。林外雨量が増加すると,樹冠通過雨量も増加する傾向が見られたが,降水が少ない時には,林外雨量に比べて樹冠通過雨量のほうが多くなる期間があった。これは,降雨にかかわらず高い頻度で発生する霧を,ハイマツ群落が効率的に取り込んでいるためと考えられた。酸素同位体比を用いて霧水の樹冠通過雨への寄与を推定すると,樹冠通過雨の35%程度は霧水によるものであった。化学成分を比較すると,樹冠通過雨は林外雨と比べて,Na+やK+やMg2+やCa2+そして、SO42-のイオン濃度は高くなっていた。一方,H+やNO3-は減少していた。樹冠に沈着した窒素沈着物は,NH4+は40%,NO3-は約80%がハイマツによって吸収されていた。一方,K+やMg2+は,樹冠から大量に溶脱している事が示唆された。