| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-740

標高の異なる2地域における土壌の窒素資源に対するヒノキの窒素利用様式

*稲垣善之(森林総研), 宮本和樹, 奥田史郎, 野口麻穂子, 伊藤武治, 野口享太郎(森林総研四国)

窒素利用効率(NUE)は、樹木が吸収した窒素量に対する一次生産量の比で示される。樹木では落葉の窒素濃度の逆数がNUEの指標として用いられる。NUEは、窒素生産性(A)と窒素保持時間(MRT)の積として示される。AとMRTにはトレードオフの関係があり、貧栄養な環境ではMRTが長い傾向がこれまでに報告されている。本研究では、高知県の標高の異なる2地域において、それぞれ6林分のヒノキ人工林調査区を設定し、土壌の硝化速度とヒノキの窒素利用様式の関係を検討した。落葉をリタートラップによって計測し、葉の現存量を伐倒調査によって求めた。MRTを落葉の窒素量に対する葉の窒素量の比から算出した。表層土壌の硝化速度は0.0-2.9 mg N kg-1d-1を示し、地域による差は認められなかった。生葉の窒素濃度は、7.9-13.4 mg g-1を示した。生葉の窒素濃度は、高標高地域で低標高地域でよりも低く、硝化速度が高いほど高い傾向を示した。NUEは、高標高地域で低標高地域よりも高く、硝化速度が高いほど低い傾向を示した。MRTは4―17年を示し、高標高地域で低標高地域よりも長かった。MRTと土壌の硝化速度には有意な関係は認められなかった。Aは高標高地域で低標高地域よりも小さかった。以上の結果、地域によって窒素利用様式に差が認められ、高標高地域では、窒素の生産性は低いものの、長く葉を維持することによって高いNUEを達成していた。一方、土壌の硝化速度に対するMRTの有意な変動は認められず、MRTは地域における気象条件の違いを反映することが示唆された。したがって、ヒノキ林の窒素利用様式は、地域内の土壌の窒素資源だけでなく、地域間の気象条件の違いを反映することが明らかになった。


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