| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-744

ヒトの血清における炭素・窒素安定同位体比およびメチル水銀濃度と魚介類摂取量との関係

中下留美子,鈴木彌生子,一宮孝博(首都大院・理工)・原田浩二(京大・医)・蜂谷紀之(国立水俣病研究センター)・小泉昭夫(京大・医)・伊永隆史(首都大院・理工)

ヒトを取り巻く環境の変遷を探るため、ヒトの食生活に注目した。メチル水銀は工業汚染により発生し、自然環境中で生物濃縮することにより、高次消費者の体内に蓄積される。また、動物の窒素・炭素安定同位体比は食物資源を反映する。これらメチル水銀濃度や生元素安定同位体比は、ヒトの食生活を知る手がかりとなるだけでなく、環境汚染の広がりとヒトの健康被害との関連性を検討するためのバイオマーカーにもなり得ると期待されている。そこで、まずは現代人の血液試料として、2007年京都府宇治市在住の24歳から81歳の男女44名の血液を収集し、その血清における炭素・窒素安定同位体比およびメチル水銀濃度を測定した。また食生活に関するアンケートの集計結果と合わせて考察を行った。その結果、血清のメチル水銀濃度は魚介類摂取量が多い人ほど高い傾向を示した。血清の窒素安定同位体比もまた、魚介類摂取量が多い人ほど高い値を示した。窒素安定同位体比とメチル水銀濃度の間には強い正の相関がみられた。一方、これらの測定値と年齢や体重、性別との間に相関は見られなかった。以上のことから、ヒトの血清中のメチル水銀濃度および窒素安定同位体比はどちらも魚介類摂取量の指標となり得ることが示された。今後、こうした現代人のデータを蓄積し、過去のヒトの試料と比較することにより、ヒトの食生活の変遷を明らかにし、ヒトを取り巻く環境の変遷を知ることができると思われる。


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