| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-337

湖沼堆積物に記録されたDaphniaの柔軟な生活史変化:八幡平湖沼と琵琶湖の例

*槻木(加)玲美,王婉琳(東北大・生命),谷幸則(静岡県立大・環境研),小田寛貴(名大・年代測定センター),松田智之,占部城太郎(東北大・生命)

動物プランクトンであるDaphniaは通常、単為生殖で増殖するが、プランクトン生活に不適な季節を乗り超えるため有性生殖を行って休眠卵を産卵する。この休眠卵の形成は日長変化や個体群密度の増加に伴う餌の枯渇等により誘発されるが、産卵率はプランクトン生活に不適な季節の有無など湖沼によって大きく異なっている。本研究では、近年の広域的な環境変化に伴ってDaphniaの休眠卵の産卵率が変化したのかどうかを明らかにするために、八幡平の蓬莱沼と琵琶湖を対象に堆積物に長期保存されているDaphniaの休眠卵量と個体数を指標する尾爪を調べ、過去100年以上にわたるDaphnia現存量と休眠卵量の変化を復元した。その結果、琵琶湖と蓬莱沼では、共通して卓越種であるDaphniaが近年増加しているにも関わらず、1980年代以降休眠卵量を大幅に減少させていることが判明した。これはDaphnia個体群が過去30年の間に生活環を大きく変化させたことを意味している。

Daphniaが休眠卵を作らなくなった原因について、琵琶湖では過去35年間のDaphniaの消長を調べた結果、個体数の最も少ない時期の浮遊越冬個体が増加していることが判明した。これは冬期の卓越植物プランクトンが、1980年以前はDaphniaにとって食べにくい珪藻であったのに対し、80年代以降は食べやすい鞭毛藻に置き換わったことによると考えられ、この卓越種の交代は温暖化に伴う鉛直循環の低下に起因する可能性が高い。一方、蓬莱沼に関しても休眠卵が減少する80年代に冬季温暖化が進行しており、植物プランクトンの種構成が変化していることが判明した。これらの結果はDaphniaが餌環境に応じて柔軟に休眠卵の産卵率を変化させていることを示唆している。


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