| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-350

安定同位体を用いたカワウ季節移動の検証

*棗田孝晴,坂野博之,鶴田哲也(中央水研),大森浩二(愛媛大・CMES),井口恵一朗(中央水研)

カワウは主として内湾や汽水域で生活し、潜水しながら魚類を捕食するが、近年内陸部への生息地拡大に伴う漁業被害が顕在化し、カワウ問題の解決が緊急課題となっている。そこで本研究では、既存の知見に基づき、安定同位体比(δ13C、δ15N)の回転率が異なる体組織を利用してカワウの採餌履歴を検証した。具体的には有害鳥獣駆除申請によって主に冬期に千曲川流域で捕殺されたカワウ24個体の肝臓、筋肉、初列風切羽、次列風切羽の4部位から試料を採取し、回転率の早い部位(肝臓、筋肉)と換羽時期である夏期の同位体比を反映する風切羽とを比較することにより、カワウの採餌場所の異同の有無を検証した。またカワウとの比較のために、有害鳥獣駆除申請に基づき千曲川で捕殺されたアオサギ9個体についてもカワウと同じ部位から試料を採取した。

カワウではδ13Cとδ15Nともに、肝臓と他の3部位および筋肉と2部位の風切羽との間に有意差が見られた。留鳥とみなされるアオサギでも、肝臓と2部位の風切羽との間で両同位体比ともに有意差が見られた事から、カワウとアオサギの両種とも採餌場所における季節異同が示唆された。しかしカワウの胃内からは、アオサギには見られない海域起源の寄生虫(Nematoda spp.)が全個体から発見され、そのδ13Cとδ15Nは、カワウ胃内の淡水魚類の値に近似していた。換羽時期の夏期の安定同位体比を反映するとみなされるカワウの初列風切羽のδ13Cの値を個体と全体の平均値とで比較すると、24個体中5個体(20.8%)では、既知の濃縮係数(3.8‰)を超える顕著な差を示した。以上の知見から、内陸部河川の千曲川で捕殺されたカワウの全個体は過去に沿岸帯での採餌経験を有し、その中には数ヶ月前の夏期に沿岸帯で採餌した後に内陸部に移動した個体が含まれている事が示唆された。


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