| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC1-364
干潟に生息するゴカイなどの大型底生動物(マクロファウナ)は,堆積物中に巣穴を形成して,干潟の堆積物環境を比較的大規模に改変する.この改変は,多くの場合,小型底生動物(メイオファウナ)の生物量・種多様性の増加をもたらす(助長効果).干潟の優占的マクロファウナであるシオマネキ,コメツキガニなどのスナガニ類も干潟に多くの巣穴を形成する.彼らの巣穴による助長効果に関する確度の高い情報を得ることにより,干潟生態系における生物多様性の維持機構に関する理解が,より深まると期待される.
スナガニ類のメイオファウナに対する助長効果を明らかにするために,私は,熊本県・天草諸島の一つ,前島の砂質干潟において,代表的なスナガニ2種(ハクセンシオマネキとコメツキガ二)の巣穴周囲におけるメイオファウナの微小空間分布を調査した.サンプル採集は,両種が活発に活動する夏期(2007年8月)と,活動が弱まる同年11,12月の大潮前後の数日間に渡って行った.
調査の結果,ハクセンシオマネキの巣穴周辺の堆積物深層では,8月,11月共に,メイオファウナ全体や,最も優占率の高い分類群である線虫類の個体密度が,巣穴直近部で最大値を示した. ただし有意差が検出されたのは,線虫類の11月の分布においてのみだった.また,コメツキガニ巣穴周辺からは,助長効果を支持する明確な結果は,いずれの分類群においても得られなかった.
両種の差異を説明する理由としては,(1)放浪個体が多数存在するコメツキガニの場合,一つの巣穴が維持される平均時間は,ハクセンシオマネキより短いため,(2)コメツキガニの巣穴周辺の堆積物粒子はハクセンシオマネキ巣穴周辺より粗く,粒子間の隙間が大きいので,巣穴がない場合でも,干潟表面から堆積物のかなり深層まで酸素が供給されるため,などが考えられた.