| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC1-365
隠岐諸島は島根県本土より北に約50km離れた「島前」および「島後」からなる列島である.「島前」は元々1つの火山であったが,噴火と海水面上昇の影響で現在「西ノ島」,「中ノ島」,「知夫里島」の主に3つの島に別れている.最終氷期の最寒冷期までは本土と陸続きであったため海によって隔離された歴史は浅いものの,オキサンショウウオやオキオサムシなどいくつかの固有種や固有亜種が知られており,生物地理学的に興味深い場所である.
2007年8月30日夜半から31日未明にかけて島後と西ノ島を中心に,1時間に100mmを超える豪雨を記録した.この集中豪雨により,渓岸侵食,渓床不安定土砂の侵食などにより土砂流出が多発し,多くの河川が土砂の影響を受けた.河川中下流域の本来の河床は土砂の下になって伏流しており,上流と下流が完全に隔てられた地点も多く見られた.さらに,下流域は泥が堆積していたり,河床の石の隙間が細かな砂で埋まり河床の石が動かなくなっていたり,急激かつ多発した土砂災害により水生昆虫の生息環境は一変した.
筆者らは集中豪雨後の2008年10月3日から10月12日に島後を中心とした隠岐諸島の河川で水生甲虫類の調査を行った.調査ではメッシュ幅が1mmのDフレームネットのタモ網を用いて河床や水辺の植物の根際,落葉中に生息する個体を採集したほか,川岸の砂をかき混ぜることにより砂中に生息する個体も採集した.土砂災害が生じる前の2004年から2005年に島後と西ノ島の河川で行われたヒメドロムシ類の分布調査の結果(林・島田,2006)と今回筆者らが行った調査の結果を比較し,土砂災害が隠岐諸島のヒメドロムシ群集に与えた影響を考察する.また,土砂災害後の河川環境を現地で撮影した写真を含めて報告するとともに,隠岐諸島とその対岸である島根県本土東部の種構成の違いに関して流水性甲虫を例に挙げて検討する.