| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-371

津軽十三湖のヤマトシジミを中心とした食物網動態とそれを支える懸濁物の起源

*伊藤真(東北大・生命), 岩田智也(山梨大), 東信行(弘前大), 鈴木孝男(東北大・生命), 占部城太郎(東北大・生命)

津軽十三湖は青森県岩木川河口に位置し、ヤマトシジミが卓越的に生息する汽水湖である。このような汽水湖では、淡水と海水が混ざり合うため、湖内で生産された有機物のほかに、海や陸域で生産された有機物も流入する。しかし、これら起源を異にする有機物のそれぞれが、汽水湖の食物網をどの程度担っているのか必ずしもよくわかっていない。そこで本研究では、濾過食者であり津軽十三湖の主要水産資源でもあるヤマトシジミに注目し、その個体群を支える主要エネルギー源(有機物)を特定するため、湖水に懸濁する内生性有機物、陸域起源有機物、海起源有機物の割合を明らかにする調査・解析を行った。

調査は2007年6月から11月にかけて毎月実施し、湖内数カ所でセストンとヤマトシジミを採取した。採集したセストンからは、エンドメンバーとしてゲル遠心分離法により植物プランクトンを分離した。また、他のエンドメンバーとして、津軽十三湖沖合の海水中の懸濁物(海起源植物プランクトン)、岩木川の懸濁物、岩木川下流域に広がるヨシ原間隙水中の懸濁物を採取した。各起源物質の混合比については、各採取試料の窒素・炭素安定同位体比を用い、マスバランスから推定した。

その結果、湖セストンの多くは植物プランクトンで構成されていること、湖水の塩分濃度をトレーサーとし、湖および海起源の植物プランクトンの構成比を推定すると、湖セストンのうち約半分が湖の内部生産由来であることが判った。この傾向はヤマトシジミでもみられ、湖全体では内生性有機物がマトシジミにとって主要なエネルギー源であることが示唆された。津軽十三湖のヤマトシジミ育成には、内部生産を適切に維持するための河川や集水域を含めた保全管理が重要であろう。


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