| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC1-372
渓流動物群集に対する渓畔のスギ植栽の影響については,地点比較に基づく調査例がいくつか存在するものの,調査地点数の少なさや交絡要因の存在により証拠として不十分である。本研究では,底生動物のうち,シュレッダー(落葉枝リター食)とグレイザー(石面付着物食)の生息量と多様性,およびサケ科魚類の餌資源(流下動物)に対する渓畔のスギ人工林の影響を,多数地点の調査と野外・室内実験を組み合わせることで,それぞれ独立に検討した。その結果を要約すると,(1)シュレッダーの生息数:40地点における野外調査の結果,優占シュレッダー7分類群のうちトビケラ目に属する4分類群は,落葉広葉樹林渓流よりもスギ林渓流で生息数が少なかった。(2)シュレッダーに対するリターの好適性:リターバッグ実験と室内飼育実験の結果,トビケラ目2分類群では,スギリターは落葉広葉樹の落葉リターよりも選好性が低く,スギリターを食物とした場合,生存,成長,発育に負の影響が認められた。(3)グレイザーの生息数・付着物の量と質:14地点で行った定着実験の結果,優占グレイザー9分類群のうちカゲロウ目3種,および石面付着物のクロロフィルa量と有機物含有率はスギ林渓流で少なかった。(4)サケ科魚類の餌資源:流下無脊椎動物の量と栄養価を12地点で調査した結果,グレイザーを主とする流下水生動物の量は,渓畔植生中のスギの優占度とともに減少したが,流下陸生動物量にスギの影響は認められなかった。潜在的餌資源量をリンで換算した場合には,むしろスギの正の影響が認められた。以上より,渓畔のスギ人工林は,基盤資源の量と質を低下させることで,底生動物群集の現存量と多様性に負の影響を及ぼすと結論されるが,流下動物を主食とするサケ科魚類には,餌資源の面では大きな悪影響はないことが示唆された。