| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC2-765
左右性とは、動物で右体側と左体側について一方が他方よりも構造的・機能的に優位にあることを指す。これは左右対称性のゆらぎとは異なり、個体群中に右体側が発達する右利き個体とその逆の左利き個体の二型があるとする考え方である。最近の研究では、左右性は魚類に普遍的に存在することが示唆されている。
左右性が注目されるのは、この形質が捕食者−被食者の相互作用を介し両者の個体群動態に影響を与えることが分かってきたからである。相互作用に関わるメカニズムとして数種の魚食性魚類で明らかにされているのは、捕食者は自分と同じ利きの被食者を捕らえる(並行捕食)場合よりも、逆の利きの被食者を捕らえる(交差捕食)場合の方が有意に多いことである。その至近要因として、実際にいくつかの魚類では利きに対応した行動の左右方向性が見出されていることから、捕食行動および捕食回避行動に個体の利きに応じた優位な方向があり、捕食者と被食者の組み合わせによって捕食成功率が変化するのだと予想される。しかし得られている知見のほとんどが捕食者側のものであり、被食者の行動にも方向性が存在するのか、またそれが実際に捕食成功率を変化させうるのかについては不明である。
発表者らは、野外で交差捕食の卓越が確認されたオオクチバスとその主な被食者であるヨシノボリ類を材料とし、実験水槽内で両者を対峙させて捕食行動・回避行動の直接観察を行った。その結果、オオクチバスがヨシノボリ類の背後から忍び寄る場合には、両者の利きが逆となる組み合わせの方が有意に捕食が成功しやすいことが明らかとなり、野外の状況が室内実験でも再現されていることが示唆された。今回の発表では、観察された行動の左右方向性について述べると共に、交差捕食が卓越する行動学的なメカニズムについても検討する。