| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC2-773
ホンソメワケベラは、魚類(クライアント)の体表の寄生虫を食べる掃除魚として知られ、両者の関係は相利共生とみなされている。しかし、先行研究は、クライアントの粘液や鱗も食べる事を報告しており、クライアントの攻撃行動も見られる事から、両者の関係は寄生的な摂餌戦略を採る掃除魚とそれを阻むクライアントの利害対立と捉える事ができる。そこで、個体識別した掃除魚の摂餌行動とクライアントの応答の観察と同位体分析による食性解析を併用し、掃除魚の寄生戦略とクライアントの対抗戦略を探る事を目的とした。
掃除魚の行動は、2008年7-9月に愛媛県室手海岸で潜水観察により行った。寄生虫は、捕獲したクライアントを真水と過酸化水素水に入れ、メッシュで濾過する事でクライアントから除いた。同位体分析には、掃除魚、クライアント、寄生虫(カイアシ類)を用いた。
行動観察から体サイズの小さい掃除魚ほどクライアントに対する接近回数および体表摂餌回数が増加し、同位体分析から小さい個体ほど高い粘液食率を示した。体サイズとともに繁殖成功が飛躍的に増加する雌性先熟魚のホンソメワケベラにとって、寄生虫より栄養価の高い粘液を食べる利得は体サイズが小さいほど大きくなると期待される。一方、クライアントの反応を観察すると、寄生虫食率の高い個体に対し掃除請求行動を積極的に示したり、粘液食率の高い個体に対し頻繁に攻撃したりする傾向はなかったが、小さい個体に対する攻撃回数が多かった。クライアントは寄生的な掃除魚を個体認識できないが、体サイズに基づいて粘液食リスクを評価している可能性が示唆された。クライアントによる寄生者排除能力の不完全さが、掃除魚によるサイズ依存的な寄生戦略の余地を与えたと推察される。