| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-789

多夫多妻制イワヒバリにおける社会的順位と精子の質

*舘野光輝,酒井秀嗣,中村雅彦

社会的順位の低い劣位雄は,交尾前の行動において優位雄より不利であるが,交尾後に精子の質を向上させることで交尾前の不利を補償すると考えられている.先行研究では,劣位雄が質の良い精子を持っている場合と逆の場合,関係の無い場合がある.先行研究のほとんどは野外ではなく,飼育下で行なわれているため,飼育がこれらの結果に影響を与えている可能性がある.高山鳥類イワヒバリは多夫多妻制の繁殖システムを持ち,野外で社会的順位と精子の質の関係を明らかにできる好適な材料である.本研究は,イワヒバリを用いて野外個体群での社会的順位と精子の質の関係を明らかにすることを目的とした.

調査は,2007〜2008年の5〜6月に乗鞍岳で行なった.順位行動の観察の後に,捕獲した個体は身体測定し,採集した血液をもとにテストステロン・コルチコステロン濃度を測定した.精液は総排泄腔突起(CP)から採集し,精子の質(密度,速度,運動率)を分析した.

雄の社会的順位は,調査期間中,安定していた.優位雄は,体重が重く,翼長・尾長は長く,年齢は高かった.一方,CP体積,相対CP体積(体重当たりのCP体積),ホルモン濃度,精子の質は,順位間で有意差はなかった.また,精子の質は,体重,翼長,尾長,CP体積,相対CP体積,ホルモン濃度のいずれとも相関関係がなかった.

本研究の結果,イワヒバリでは社会的順位と精子の質に関係がないことがわかった.コルチコステロン濃度も順位間で有意差はなく,CP体積,相対CP体積でも差がないことから,順位の間でストレスに差はないことが示唆された.劣位雄は,少ない交尾機会を補償するため精子の質に大きな投資をするはずだが,本種の場合精子の質に差がないので,一回の性的出会いの回数や交尾一回当たりの射精量を増やす可能性がある.本研究は,野外で生活する鳥類で社会的順位と精子の質の関係をはじめて明らかにした.


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