| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S05-5
侵略的移入種である植物種の特性の一つとして、栄養繁殖(クローナル成長)を行なうことが指摘されている。しかし、これまでの研究の多くでは、クローナル成長を行なうという点のみが注目され、クローナル成長のどのような特性のために、ある種が侵略的移入種となりやすいか、という検討が十分になされてきたとは言えない。本発表では、一部のクローナル植物が有する多量の地下貯蔵物質が、地上部の生産構造の迅速な確立をもたらすことで成長を高め、その結果、侵略的となりうるのではないかという視点から、クローナル成長を示す日本の在来種で、近年ヨーロッパにおいて'most pernicious weed'とも言われているイタドリ(Fallopia japonica)を対象とした最近の研究を紹介するとともに、今後の課題を提案する。
保全生物学では、侵略的になりうるクローナル植物の特性として、栄養繁殖の能力やラメット間でしばしばみられる生理的統合の影響が強調されてきた。しかし、生理的統合が物質生産に実際、どの程度貢献しているかに関する実証的な研究はほとんど行われておらず、また、生理的統合によるラメット間の物質移動がかなり限定的であることも報告されている。一方で、物質生産の解析により、卓越した地下部に蓄積される貯蔵物質が、生育シーズン初期の生産構造確立の早さや攪乱に対する耐性をもたらすことは、1950年代より多くの研究で指摘されている。さらに、世界的に極めて侵略的であると指摘されている陸生の移入草本植物12種のうちの少なくとも6種が発達した地下部と地下貯蔵物質を有していた。以上より、侵略的な生物の移入・拡大の過程で、多量の貯蔵物質が何らかの役割を果たしていると予想され、その定量的な評価が、移入種の管理には重要である可能性がある。