| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S07-1

水田環境の多様性を微生物から考える

木村眞人(名古屋大・生命農)

水田は、夏季の水稲栽培期間湛水状態に置かれ、水稲収穫後は落水状態で翌年の春まで放置される。水田はまた、水稲の増収を目的に様々の圃場管理がなされる特異な人口湿地である。しかし、水田土壌生態系には多様な微生物群集が生息し、その多様性は土壌中に様々な微生物環境が存在することに起因する。演者らは、水田圃場から、1)表面水・浸透水、2)表面水中のミジンコ、3)土壌、4)水稲根、5)稲ワラ、6)堆肥(製造過程、土壌に施用後)を季節ごとに採取・回収し、リン脂質、DNA、RNAを抽出後、リン脂質脂肪酸組成から微生物群集構造の全体像を、DNA、RNAに各種のプライマーを使用することにより、真正細菌、真核生物、メタン生成古細菌等の微生物群集構造をそれぞれ解析し、各部位における微生物の群集構造とその多様性・安定性を比較した。また、篩を用いて表面水中の30umから2cmの水生生物を採取し、主に門や綱のレベルで同定するとともに各個体数を計数した。

その結果、各部位には異なるグループの微生物群集が生息し、生物多様性、群集構造は各部位ごとに異なっていた。なお、各部位において季節変動が観察されたが、その変動幅は各部位間での違いに比べて小さいものであった。また、水生生物群集は、水稲生育の前半と後半で異なるとともに、施肥の影響、生息部位、耕作の影響も観察された。水生生物は、冬季間その生息場所を失う。水田各部位での水生生物の越冬場所を調査した結果、多くの水生生物が水田圃場内で越冬するのが明らかとなった。

現在、世界各地の水田土壌からウィルスDNAを抽出し、カプシド遺伝子g23を対象に、世界規模での多様性を海洋中のウィルス群集と比較しつつあり、これまでの結果から、世界各地のウィルス群集には共通性と各地に特異的な群集が存在すること、海洋と水田土壌ではウィルス群集が全く異なり、多様性は水田土壌のほうが高いことが判明した。


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