| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S21-2
沿岸域における陸域起源栄養塩類の重要性は多くの研究で指摘されてきたが、有機物源としての陸域起源有機物の重要性についても、近年、安定同位体分析を用いた研究が行われている。しかし、沿岸域、河口域において河川が輸送する陸上起源有機物は多量に存在するにも関わらず、一般的に海洋生物にとって同化しにくいことから、重要な餌として寄与しているという報告は少ない。本報告では、炭素・窒素安定同位体比分析により、若狭湾の枝湾である小浜湾の堆積有機物(SOM)を起点とする食物網構造を解析し、比較的閉鎖性の強い海域において、河川由来有機物が食物連鎖を通して底生魚類に利用されるまでの経路およびその貢献度について検討する。
小浜湾に流入する北川と南川の河口から湾口にかけてSOMと多毛類を採集し、河口からの距離とSOM、イトゴカイ科およびタケフシゴカイ科の炭素安定同位体比の関係を調べた。その結果、SOMの炭素安定同位体比の値は、湾口に向かうにしたがって高くなり、一般的な陸域起源の懸濁体有機物(POM)の値から植物プランクトンを中心とした海域POMの値に近づいた。一方、イトゴカイ科とタケフシゴカイ科の炭素安定同位対比も河口に近い場所では低く、河口から離れるにつれてしだいに高くなり、SOMの傾向と符合した。さらに、河口付近の堆積物食多毛類の炭素安定同位体比の値が、陸域起源POMと海域POMのちょうど中間の値を示したことから、堆積物食多毛類が生息環境によっては陸域起源有機物を餌料源とすることが示唆された。また、堆積物食多毛類からチロリ科やイソメ科のような肉食性多毛類へのエネルギー経路が、安定同位体比分析の結果から示唆され、魚類の胃内容物解析からは、多毛類を直接の餌料とはしていないヒラメなどの上位栄養段階の魚類が、スジハゼなどの小型魚類を経由して、河川由来有機物を利用していることが示された。