| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S22-1

趣旨説明

和穎朗太(農環研)

土壌有機物の性質は、微生物や土壌動物の生態、植物・微生物の栄養塩環境、大気へのCO2放出、水域への溶存有機物の流出などと密接に繋がっており、多くの生態系プロセスを制御していると考えられている。また、岩石を除いた陸域最大の炭素貯留プールである土壌有機物は、大気−陸域間の炭素循環の速度 に大きな影響力を持つ。近年では、土壌有機物プールがCO2濃度上昇、気温・雨量の変動、窒素降下など地球規模で起っている複合的な環境変動に対してどのように応答するかという問題が重要な研究テーマとなっており、土壌有機物研究は活発化している。

趣旨説明では、まず地球全体の土壌炭素量の内訳および植生・土壌タイプの対応関係を示す。次に、土壌有機物の基礎的性質について簡単に解説し、最後に、生態系における土壌有機物の機能について考える。生態系は、純一次生産と土壌有機物分解の動的平衡の上に成り立っているとされる。それは、生産者が供給する有機物をエネルギー源として分解者が活動し、そこで同時に無機化された窒素(N)やリン(P)が一次生産の維持に関わるからである。NおよびPは、代謝、エネルギー伝達、光合成などに必須であり、C、O、Hとともに主要構成元素である。一方、一部の有機物とそれに結合しているNやPは分解を免れて土壌中に長期的に貯留され、この安定化された有機物は土壌の物理的・化学的安定性や緩衝能に寄与する。このように、土壌有機物の動態は、生態系の元素循環および植物の栄養塩環境と連結している。

土壌は、多種多様である。しかし、掘らなければ眼に見えず、実体を捉えることは難しい。本シンポジウムを通して、土壌への興味・理解が深まり、生態学・土壌学などの異分野間の共同研究が促進されることを目指している 。


日本生態学会