| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S22-3

森林生態系における溶存有機物の動態と機能

藤井一至(京都大・農)

森林生態系において、林床へ供給されたリターは、可溶化によって溶存有機物(DOM)として溶液中へ放出され、大部分は無機化を受けるが、一部は下層へ浸透する。鉱質土壌中では、DOMの多くは一旦土壌固相に吸着され、土壌有機物として蓄積される。同時に、DOMは、微生物の基質として、また栄養塩循環を促進する有機陰イオンとして生態系において重要な役割を果たしている。DOMは、オリゴ糖、低分子有機酸などの低分子DOMと腐植物質を含む高分子DOMの代謝回転速度の異なる二つのプールからなっている。それぞれの動態、機能に着目することで、陸域、土壌からの二酸化炭素放出や土壌有機物蓄積のメカニズムを理解できる。

低分子DOMは土壌溶液中DOMのごく一部(<10%)に過ぎないが、低分子DOMの代謝回転速度は速く(時間・日オーダー)、植物根からの滲出物、リターの可溶化(生産)と無機化(消費)を通じた急速な代謝回転によって、土壌からの微生物呼吸(無機化による二酸化炭素放出)の主要な基質となっている。

一方、微生物の「食べ残し」でもある高分子DOMは、リグニン由来の芳香族化合物などを含み、代謝回転速度が遅く(年オーダー)、無機化されにくいため、基質として微生物呼吸に寄与する割合は小さい。高分子DOMは、降雨に伴って林床から溶脱するDOMの主成分となる。林床からの高分子DOM下方浸透量はリターによる炭素供給量の1-30%に相当し、低分子DOMの無機化によるCO2のフラックスと比べて小さい。

リターの可溶化、無機化、下方浸透、蓄積(腐植化)といった複数のプロセスを繋ぐ一時的なプールであるDOMの挙動は、気候、植生だけでなく土壌環境によっても異なる。DOMの挙動とその規定要因の評価は土壌、陸域からの炭素放出量予測の改善、栄養塩動態や水域への物質移動の理解に必要である。


日本生態学会