| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S22-6
農耕地土壌において、土壌有機物は、伝統的な研究対象である。土壌有機物は、土壌の物理性・化学性・生物性に大きな影響を及ぼし、農業の生産性を左右するため、土壌有機物の集積・分解過程の解明や変動予測研究が行われてきた。
一方、近年、地球規模での炭素循環における土壌有機炭素の重要性が注目され、農業的な意義とは別に、国や地球レベルにおける土壌有機炭素の定量的な変動予測の必要性が高まっている。
土壌有機物の正体を明らかにする方向での研究は重要であるが、一方で、正体が完全に明らかでないままでも、上記のような変動予測に対する社会的な要請がある以上、現時点での知見を総動員して将来を予測することも必要である。その際に役立つのが、シミュレーションモデルである。例えば、温度が高いほど有機物の分解が早いこと、土壌中の有機物には、分解が速いものから長期間にわたり安定なものまで様々なものが存在することなど、既存の有機物の集積・分解過程に関わる知見を整理し、主要な因子を数式として取り入れコンピュータ上で計算を行う。
世界では多数のモデルが提案されてきたが、適用例は、開発元である欧米における温帯の畑土壌に偏っており、日本あるいはアジアにおいて重要な水田や火山灰土で十分に妥当性が検証されていない状態であった。「モデル」という言葉から、「所詮は架空の計算」というような負のイメージを持つ人がいるかもしれない(私もそうだった)が、それは、実測値による検証を進めることで払拭できる。日本やアジアの農耕地には、数十年間にわたり作物や土壌炭素のデータを取り続けた長期連用試験が存在する。そこで、既存の主要なモデルのなかでも簡便で信頼性が高いRothamsted Carbon Model (RothC)について、日本およびタイの農耕地における実測値を用いたモデルの妥当性の検証や、改良を行ってきた研究の概要を紹介する。