| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) C1-05
近年になり農業の集約化(窒素の大量投下)や管理放棄により半自然草地の種多様性の減少が世界的に引き起こされている.特に集約化や管理放棄によって希少種のほうが普通種よりも減少しやすいことがわかってきた.そもそもなぜ希少種とよばれる種は半自然草地に適応し生き残ってこられたのか?そしてなぜ希少種は集約化や管理放棄によって現在減少しているのか?この研究ではこの二つの問いに答えるために,里山に広がる畦畔草地の植物多様性と棚田の構造の関係について調査を行った.私たちは棚田の構造により資源環境の異質性が形成されることが畦畔草地の植物の多様性を高めているという仮説を立て,その検証を行った.仮説の詳細は,1)水田が階段状に造られることで、畦の上部と下部で土壌水分の差が生じる,2)田越灌漑によって下流の水田の畦ほど栄養塩が集積する,3)多様性のパターンがこれらの環境傾度に反応しているである.
2008年秋-2009年春に、兵庫県宝塚市西谷地区において最上部にため池が存在する19の棚田の畦畔を対象に調査を行った.棚田あたり2〜6つの畦の上部と下部に1m2の方形区を設置した.各方形区では,2008年夏に土壌含水率を測定し,秋には0.25 m2の地上部を刈り取り乾燥させ生物量と植物体中の窒素含率を測定した.また2008年秋と2009年春に植生調査を行った.
調査の結果,土壌水分は畦下部でより多く,植物体中の窒素の含有率はため池直下の畦で最も少なく、棚田下部ほど増加していた.また,希少種の多様性はため池近くの貧栄養な畦の下部で高く,全体的な植物種の多様性は富栄養化した畦の下部で高くなっていた.以上の結果を受け上記の二つの問いに答える