| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) C1-10
河畔の植物群落は護岸や水質浄化といった機能を持つとともに、野生動物の生息空間や地域の景観資源として位置付けられている。河川の氾濫原に分布する河畔林は河川改修や河辺の植生改変などによって全国的に少なくなっており、保全と適切な管理を行う必要がある。愛知県の中央を流下する一級河川矢作川では、自然護岸の区間が多いため河畔林が比較的よく残されており、2006年から上中流域を対象として、今後の整備・管理方針策定に資する、河辺の動植物の生息状況の調査を行ってきた。その結果、昆虫類やカエル類、ヘビ類、鳥類の生息環境として落葉広葉樹林が重要であることがわかった。矢作川上中流の河畔ではかつて水害防備林として植栽された竹林が最も広い面積を占めているが、その中にケヤキなどの落葉広葉樹林が点在している。本研究ではこうした小規模のケヤキ林を主な対象として林分構造と面積変化の調査を行った。また、河畔植生の成立と更新に関与していると考えられる矢作ダム(1971年建造)の影響についても考察した。
矢作ダムの上下流を問わず河畔の落葉広葉樹林は拡大傾向にあったが、林内にはケヤキ等の優占種が更新できる立地がない状態だと推測された。矢作ダムの影響を受けない上流の林分では下流よりも林冠木のサイズが大きい傾向があったが、これは矢作ダム以前に建造された複数の小規模な発電用ダムにより河川流量が安定化したことで、河畔林が成立したためである可能性がある。矢作川の上中流でケヤキ林の更新を図るには、人為的に更新立地を設ける必要があることが示唆された。