| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) C2-01
北海道北部のサロベツ湿原では、湿原周辺の農地排水路、河川改修、道路建設などの影響で、近年、湿原環境の悪化と植生の退行が顕在化している。そこで、道路側溝の排水の影響でチマキザサが侵入・繁茂している上サロベツ原生花園木道付近で、ミズゴケ優占植生の復元実験を実施した。実験地はササが優占するが、その下にミズゴケが不均一に残存しており(平均7.2%)、草本層を実験前に刈払いし、1m×1mの方形区を24設置した。各方形区内の残存ミズゴケは被度を評価し排除せず、ミズゴケ散布の有無、マルチの有無、マルチ素材の違い(ヌマガヤ枯死茎葉またはササの稈)の6通りの処理を4反復した。散布用ミズゴケは近接の高層湿原で1m×1m内のミズゴケの先端部1.5-2cmを刈り取り、各ミズゴケ散布方形区に1/4量を散布した。マルチ材は、翌年の融雪後に取り除いた。一連の処理は1998年と1999年の11月に2回行い、1999年から2004年まで、秋に草本層を刈払いしミズゴケの被度を調査した。さらに、植生復元実験区と他2地点の地下水位連続測定、実験区とその周辺の水準測量を行った。
湿原内の微妙な凹凸や維管束植物の生育状況などの影響で、同じ処理間でも結果にバラツキがあった。また、マルチの効果は明らかではなかった。ミズゴケ散布の効果を検定した結果、2年目までは有意な差がなかったが、3年目から散布の効果が明らかになり、経年とともに差が大きくなった。一方、測量結果や地下水位測定結果は、試験地が道路側溝の影響で、地盤沈下と地下水位低下を呈していることを示した。以上から、側溝の堰上げなどの水位低下防止策を実施しながら、ササの刈り払いとミズゴケ散布を行えば、植生復元が可能と考えられた。