| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) C2-11
地球温暖化の影響により西日本のブナ林は今後100年間に消滅すると予想されている。人間活動によって大部分が消滅した岡山県内でも、残存するブナ林は密生するササのために次世代のブナが育ちにくい状態となり更新できない恐れが出ている。ササ型ブナ林の更新については、これまでに優れた研究がなされているが、実生の定着過程についての研究は少ない。本研究ではブナ優占林でブナ実生の定着を光環境との関係から考察した。
岡山県内の調査区と比較するために、秋田県の十和田調査区(ササ一斉枯死)と青森県の蔦調査区(ササなし)で毎木調査とササの稈密度の測定及び光環境の調査を継続して行った。ブナ実生は樹齢と位置をすべて記録して追跡した。
その結果、ブナ実生は閉鎖林冠下でチマキザサが密生する毛無山調査区(岡山県)の場合には発生したその年にほとんどの個体が枯死したが、ササが刈り取られた登山道沿いでは13年後の現在でも2割程度が生き残った。一方、チシマザサが一斉枯死した十和田調査区では、枯死したササの下でブナ稚樹が生き残っており、それらの一部がササの回復過程でササの上部に出ることができた。ササの回復過程にある林内では、ササはギャップやブナ以外の林冠下で稈密度が高くなったが、実生は稈密度が3〜4本/m2の場所で生残する個体数が最も多くなっていた。同様にチシマザサが生育する若杉調査区(岡山県)の場合には当年生実生が稈密度の低いところで最も多く生育していたが、およそ40年生の稚樹が最も多く生残したのは稈密度が6〜7本/m2の場所であった。
ササの稈密度と日平均積算光量子量との関係では、光量子量は稈密度が高くなるにつれて一定の割合で減少するのではなく、稈密度が2〜8本/m2の場合には一定となっていた。ササ型ブナ林ではブナ実生が生残するにはササの稈密度がある程度必要であると考えられた。