| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) D1-08
環境変動下で生物多様性が生態系機能に与える効果として、既存の生態系機能の向上・安定化と新しい生態系機能の創出効果を検討する。保険仮説(insurance hypothesis)によれば、同じ生態系機能を担う機能群(functional group)内の多様性が高まれば、環境応答の非同期性が高いほど、環境変動に対する生態系機能の向上と安定性が促進される。一方、異なる生態系機能を持った種の生物多様性効果としては、次のようなメタ生態系を考えることで、生態系機能の相補的な組み合わせによる新しい生態系機能の創出が期待できる。メタ生態系を構成する各生態系において、空間的異質性や歴史性(時間的履歴や多重安定点)によって、生態系レベルでの多様性が創出・維持される場合を考える。このようなメタ生態系は、単独の生態系では維持できない多様な生態系機能を担う種を、メタ生態系内部の群集構造や遷移段階が異なる各生態系の中に、重複を含めて空間的に並列的に分散した形で保持することができる。このメタ生態系内の各生態系に分散して蓄えられた多様な生態系機能を担う種のプールは、生態系間の種の移動を通じて、各生態系の遷移を互いに促進することが期待される。環境変動下では、各生態系に分散して蓄えられていた異質な機能群に属する種が、生態系間の移動・分散を通じて特定の生態系の中に相補的に組み込まれることで、環境変動に対処する上で有効となる新たな生態系機能を生み出す可能性がある。本研究では、このようなメタ生態系に基づいた生態系機能の創出効果について理論的に検討する。